Transactional Analysisを略してTAと言う。TAとは,精神科医エリック・バーン(Eric Berne,1910-1970)が創始した一つのパーソナリティ理論であり,個人が成長し変化するためのシステマティックな心理療法の一つである。日本では,「交流分析」という名で呼ばれることもある。
現在,TAは心理療法にとどまらず,教育現場,社員研修,会社などの組織運営,地域における相談活動などにも適用され,広く用いられている。
TAは,4本の柱から構成される。すなわち,(1)構造分析:個人の中で起きていることを理解する方法,(2)やりとり(交流)分析:2人の間に起きていることを理解する方法,(3)ゲーム分析:不快感をもたらす特定な交流の型を理解する方法,(4)脚本分析:個人が推し進めている人生プランを理解する方法である。TA101と呼ばれる基礎講座には,これにストローク,時間の構造化,人生の立場,値引き,ラケットといった概念が加えられている。バーンの諸概念に加えて,1971年に設定され毎年学会で授与されるエリック・バーン記念科学賞受賞論文が理論的基盤を支えている。
TAは,1950年頃からサンフランシスコとその周辺でバーンが開催していた社会精神医学セミナーを母体として開発され,1958年にAmerican Journal of Psychotherapyに「TA:集団療法における新しく効果ある手法」が発表された時点で,理論体系と治療法を備えた「学派」とみなされるに至った。日本には1972年頃,九州大学心療内科池見酉次郎により導入されたが,池見は,TAに心身一如など東洋的哲理を加味し,「米国式のTAから換骨奪胎したものとして『交流分析』なる表現を提唱し・・・・米国式のTA・・・・と交流分析とは,一応区別してお考え願いたい」と述べている。
TAはバーン独自の理論ながら精神分析的色彩を留めている。これは彼の長年にわたる精神分析に対する関心と造詣の深さによる。また社会精神医学に対する関心が高まり,さまざまな形の精神療法が開花した1950年代の米国の社会的風潮の影響を無視することは出来ない。当初からTAの発展に関わってきたデュセイ[J.M.Dusay]によると,1955年から62年にかけては思考中心の基礎理論が確立され,1962年から66年はサンフランシスコ・セミナー派を中心とした理論展開がみられ,1966年から70年にかけてはゲシュタルト療法を取り入れたグールディング夫妻[R.L. & M.M. Goulding]の再決断療法,シフ[J.Schiff]の再ペアレント法など,思考中心を離れ,感情を取り入れた治療法と理論が展開した。現在,エゴグラム理論のデュセイとドラマの三角図説のカープマン[S.Karpman]に代表されるサンフランシスコ・セミナー派,シフに代表される再育児派,グローダー[M.Groder]のエスカレピアン派,グールディング夫妻の再決断派がある。
引用・参考 カウンセリング辞典 1990 誠信書房 深澤道子「交流分析」